医療用点眼剤の
製剤設計・製造

はじめに

本邦で製造販売承認されている医療用点眼剤は約450品目存在(2023年4月時点 医療用点眼剤写真一覧より)し、眼科医療の場でお役立ていただいています。
それら医療用点眼剤はどのように製剤設計され、製造されているかをご理解いただくために、本コンテンツを作成いたしました。
医療用点眼剤の製剤設計には医薬品として「有効性」、「安全性」、「安定性」、製造には「高品質」が求められます。
ここでは「医療用点眼剤の製剤設計」と「医療用点眼剤の製造」について、解説します。

医療用点眼剤の
製剤設計

医療用点眼剤の製剤設計では、まず、①有効成分の物性(溶解性、安定性など)を調べ、②どのような剤形の点眼剤(水性,懸濁性,用時溶解)又は眼軟膏剤にすべきかを決定します。その後、③必要に応じて安定化剤、等張化剤、防腐剤などの添加物を選定し、各種安定性を検討することで、最終的な製剤を決定します。

①有効成分の物性

有効成分の水に対する溶解性と、水溶液中での安定性を調べます。

②点眼剤の剤形

一般的には有効成分が水に溶けやすく、安定である場合は水性点眼剤。水に溶けやすいが、不安定である場合は用時溶解点眼剤。水に溶けにくいが、安定である場合は懸濁性点眼剤。そして水に溶けにくく、不安定である場合は眼軟膏剤となります。なお、眼軟膏剤は水性点眼剤と比べて目における成分の滞留性が良いので、有効成分が水に溶けやすく安定であってもこの剤形が選択されることもあります。

有効成分の製剤設計

③添加剤

点眼剤には有効成分以外にも様々な添加剤が配合されています。主な添加剤は下表のとおりです。

  • 用途
  • 使用目的
  • 添加剤名
  • 可溶化剤
  • 使用目的
  • 水に溶けにくい有効成分を溶けやすくするために用います。
  • 添加剤名
  • ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
    ステアリン酸ポリオキシル40
    ポビドン
    ポリソルベート80など
  • 安定化剤
  • 使用目的
  • 水溶液中では分解するなど不安定な有効成分を安定化させます。
  • 添加剤名
  • エデト酸ナトリウム水和物
    ポビドン
    ポリソルベート80など
  • 等張化剤
  • 使用目的
  • 涙に近い浸透圧にします。
  • 添加剤名
  • 塩化カリウム
    塩化ナトリウム
    濃グリセリン
    ブドウ糖
    D-マンニトールなど
  • 緩衝剤
  • 使用目的
  • 点眼剤のpHの変動を防ぎます。
    -pHの変動によって有効成分等の安定性や眼組織への移行性が変わることがあります。
  • 添加剤名
  • クエン酸ナトリウム水和物
    酢酸ナトリウム水和物
    炭酸水素ナトリウム
    トロメタモール
    ホウ酸
    ホウ砂
    リン酸水素ナトリウム水和物
    リン酸二水素ナトリウム水和物など
  • pH調節剤
  • 使用目的
  • 点眼剤のpHを最適な状態に調節します。
    -pHによって、有効成分の安定性や眼組織への移行性が変化したり、点眼時のさし心地が変わったりします。
  • 添加剤名
  • 希塩酸
    水酸化ナトリウムなど
  • 防腐剤(保存剤)
  • 使用目的
  • 使用中における点眼剤の微生物汚染を防止します。
  • 添加剤名
  • ベンザルコニウム塩化物
    パラオキシ安息香酸メチル
    パラオキシ安息香酸プロピル
    クロロブタノール
    クロルヘキシジングルコン酸塩
    ソルビン酸など
  • 粘稠化剤(粘稠剤)
  • 使用目的
  • 点眼剤の粘性を高めます。
    -粘性が高まると、有効成分の結膜のう内滞留性が向上し、眼組織への移行および薬効の持続性が高まります。
  • 添加剤名
  • カルボキシビニルポリマー
    ポビドン
    ポリビニルアルコール(部分けん化物)
    ヒドロキシエチルセルロース
    ヒプロメロース
    メチルセルロースなど

医療用点眼剤の
製造

医療用点眼剤は、安全に使用していただくため、高品質な製品を製造することと、それを担保するための厳格な検査が求められます。
製造・検査における特筆すべき点を紹介します。

①使用する水の条件

製造写真

点眼剤の品質に影響する水は、微生物や異物などを含まない高い純度の水が用いられます。

製造写真

水道水から塩素など化学物質を除去した「純水」に加工、さらに極めて高純度な蒸留水へと段階的に加工され、不純物を確実に除去し、「精製水」または「注射用蒸留水に匹敵する水」を用います。

②空気の清浄度

製造写真

製造写真

医療用点眼剤の製造は、ろ過滅菌等により無菌化された充填液を容器に充填します。この充填エリアは、グレードAと呼ばれ、手術室と同等またはそれ以上の清浄度を維持し、さらに微生物モニタリングを実施し管理しています。

解説:
1立方メートル中の空気中における浮遊微粒子の数により、少ない環境からグレードAからDまでに分類される。

③品質検査

製造写真

製造写真

点眼剤の製品品質を管理するため、いろいろな検査機器を備えており、専門知識を有したスタッフが各種試験業務に従事しています。試験はクリーンルームの環境で行うものもあり、それらにより製品の品質を使用期限まで保証する試験を行っています。

検査器具は、高速液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフ、分光光度計などを使用しています。

製造工程
【点眼剤】

秤量[ 原料を量り取る工程 ]

製造写真

原料(粉・液体)を量ります。

製造写真

原料に合わせたさまざまなサイズの電子天秤・秤量器具を使用します。

調製[ 薬液を作る工程 ]

製造写真

精製水をためタンクの中に原料を投入し、タンク内の攪拌羽(プロペラ)でかき混ぜ、成分が均一な薬液を作ります。

製造写真

0.2μm無菌フィルターユニット内のフィルターを通過させることにより、薬液を無菌化させます。

製造写真

薬液の特性上フィルターを利用し無菌化することができないものは、加圧滅菌タンクと呼ばれるタンクにて薬液を高温とすることにより滅菌し無菌化します。

充填[ 薬液を容器に充填し、キャップで装栓する工程 ]

製造写真

製造写真

滅菌された容器に無菌化した薬液を充填し、中栓・キャップを装着します。充填部は無菌環境のため、清浄度が高く保たれています。

④包装

製造写真

充填された製品は、異物検査機にて、薬液中に異物がないか確認を行います。

製造写真

製品に製品名・使用期限・製造番号等が記載されたラベルを貼付し箱詰めします。箱にはラベルと同様に製造番号・使用期限・GS1コードという識別コードを印字します。

製造写真

箱詰めした製品を段ボール箱に梱包し、パレットに積載します。その後、自動化された機械装置により自動倉庫へ搬送され、保管されます。

⑤出荷

製造写真

適正な品質の製品を市場に出荷します。

製造工程
【眼軟膏剤】

秤量[ 原料を量り取る工程 ]

製造写真

原料(粉・液体)を量ります。
原料に合わせたさまざまなサイズの電子天秤・秤量器具を使用します。

製造写真

ワセリンなどはドラム缶に入れた状態で重さを量ります。

製造写真

ワセリンなどはタンク内に入れることで、加熱しながら溶かしていきます。

製造写真

溶かしたワセリンなどはフィルターを通過させることにより、無菌化させます。

調製[ 軟膏を作る工程 ]

製造写真

製造写真

無菌化したワセリンなどと、滅菌処理を行った粉状の原料や液体の原料をタンクに投入し、タンク内のパドルミキサーでかき混ぜ成分が均一な軟膏剤にします。無菌化された原料を使用するため、クリーンルームで作業を行います。

充填[ 軟膏をアルミチューブに充填する工程 ]

製造写真

滅菌されたアルミチューブのおしりから薬液を充填します。
充填後、折り機でアルミチューブのおしりを折ることで封をします。

製造写真

折った部分に使用期限と製造番号を刻印します。
検査スタッフが、アルミチューブのつぶれ、折れ、刻印の外観検査を行います。

④包装

製造写真

製品がつぶれないようにロンドレーションという波型緩衝材に製品を入れ、箱に詰めます。箱には製造番号・使用期限・GS1コードという識別コードを印字します。
箱詰めした製品を段ボール箱に梱包し、パレットに積載します。その後、自動化された機械装置により自動倉庫へ搬送され、保管されます。

⑤出荷

製造写真

適正な品質の製品を市場に出荷します。